ミノタウロス会アーカイブ(後編)シノプシス発表&講評
二部 シノプシス発表&講評
前半はコチラ→(前半)概要&Wikipediaを読んでワイワイ話す
書き終えた後、おのおのが全員分を黙読。
阿弥陀籤で講評の順番を決めてから、第二部スタート。
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①山下作『生け贄』
https://drive.google.com/file/d/1Mo4LebUeOv3scvbThMubM9GVUsxflJ0p/view?usp=sharing
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山下 書く前にもっかい読んだときに、この生け贄にされた少年少女辛いなぁみたいな。なんだかわからないけど、働いてる自分と重ねてしまったところがあった。「え? なに?」みたいなことってあるじゃん。生け贄にされた少年少女たちも「え? なに?」っていうのがたぶん第一の感想だと思う。そこをメインとして描きたいな、と改めて読んだときに思った。「それこそ企業とかの話にしようかな」みたいな脱線を途中でしかけたんだけど、「いや、シノプシスの話だ、シノプシスを書かなきゃ」ってなって軌道修正した。この『ミノタウロス』の中で終わらすように考えた。だから正直終わり方としては別に面白くない。
大島 でも「英雄の使命感だけで少年少女を救った」っていう記号感がすげー好きだなと思った。
徳永 最後の記号感僕も好きだった。
大島 徹底して英雄に対して冷たいよね。やっぱ働いている身としては?
山下 別に助けに来られたところで「はあ?」って思う。それは「あなたの英雄としての使命感だけですよね」と。そういう人っているじゃん。どこにでもたぶん。なんかそういうのを感じたわ。
徳永 でもめっちゃスリリングな話になりそうよね。囲われてるし。
大島 ジャンルものっぽいですよね。ホラー映画とか。
徳永 バトロワ感あるもの。
大島 「二日ほど何事もなく快適に過ごしていたが」ってあたりが分ってるよね。
徳永 最初の平穏さいい。
荒田 すごく良かった。
山下 ああもうこれは絶対初めの方じゃないな、もう本当に一日とかそのぐらいの単位感覚じゃないと持たんよな、と感じた。
小室 壁画が増えていくんですね。
徳永 ああ、いい。
大島 初め綺麗な画に見えるんだね。意味が分かってないと。だから初めの子供のときは壁画がなかったけど、次の9年目とかになると、
徳永 仲間が1人減って、壁見たら、綺麗な画が1つ増えてる。
大島 それはもう綺麗じゃないよ。子供をなんだと思ってるの。
徳永 かわいい画増えてんなと思ったら、アイツがいない「はっ!」とするパターンや。
大島 確かに映画っぽい。
徳永 ジャンル映画感あって楽しそう。
大島 でもそれって生け贄がどう死ぬかを楽しんで見るみたいなスタンスやから、茜ちゃん(山下)の言ってた共感みたいなものが初め読んだときは全くなかった。
徳永 え! でも僕けっこう少年少女たちに感情移入できるなって感じはあったけど。おもむろに呼ばれたとこで最初は良かったけど、じつはヤバいみたいな状況ってけっこうよくあるし。ミノタウロスめっちゃ怖いだろうなと思って。
大島 自分たち用の施設じゃなかったっていうことですよね。「スパかな?」みたいな、さらっとしたこう乾いた石みたいな床で、温泉とかもあって、広々としてて、でもどうしてこんなに天井が高いんだろう? と思ったら、
徳永 すっごい広い風呂だと思ったら。
大島 「ベッドも広々してるし、サイコー」とか思ってたら、そのサイズに合ったでっかい奴が入ってきて……かわいそう。
荒田 この話では屋敷の主人なんですね。閉じ込められたとかじゃなくて。
山下 そう。そういうことにしました。
大島 本当だ。
小室 スーツとか着てそう。
一同 あー。
山下 それまでもなんかあるんだろうけど、ここのメインは少年少女たちだから。
大島 独立したミノタウロスの話なんですね。だからスーツを着てるかもしれない。
徳永 まあでも順応してるわけよね。その迷宮に。
山下 してます。
徳永 なにげに「三日目の午前中」っていうこまかい時間設定が良いなって思った。
小室 たしかに。
徳永 午後は一体。どんな……!
荒田 午後になると、夕方なので暗くなってきて、なにか新たな……、
徳永 また別の……! 暗闇で! 暗闇での闘いが……。
大島 怖いよぉ。
徳永 ミノタウロス絶対耳もいいもんな。
荒田 ミノタウロスが何を考えてるのかっていうのが徹底して出てこないのがすごく良いなと思いました。
徳永 謎の恐怖として出る。……どんな子供たちかも気になってくるもん。ここまできたら。
大島 「とにかく生き続けることを選ぶ者と、逃げて死を選ぶもの」逃げて死を選ぶ者っていうのがなんかもう悲しいっすね。死ぬ為に逃げるっていう。
山下 わかってるかどうかっていうのは考えてなかったけど、
大島 わかってるって、逃げたら死ぬっていうのが?
山下 そうそう。
大島 テセウスがどうやって知ったかが気になる。
徳永 まあでも、毎年子供たちを送り込むっていう行事が行われてたから。わかんねぇけど八岐大蛇神話みたいな感じで、たまたま?
大島 ミノタウロスも突然出てきたからテセウスも突然出てきて映画としてはすげーいいのかもしんない。テセウス、なんかキラッキラした感じの。
徳永 白人だろうね。
大島 ラガーマンみたいな感じの。壁画を見て拳を握りしめるんだろうな。テセウス即分るからそういうの。
荒田 茜さんの「自分たち社員の話」っていうのを聞いてから、一番最後の「もうそんなことはどうでもよくなっていた」が意味深に、なんかきました。
徳永 一気に共感性上がった。
小室 これは想定だったら何人ぐらい生き残ってる想定なんですか?
荒田 (男女)7人ずつなんでしたっけ?
徳永 14人おるってこと?
山下 ……3人くらいかな。
一同 3人!
徳永 やっぱそのくらい、メイン3人で。
大島 メイン、メインって見方がやばい。フィクション脳。
徳永 『約束のネバーランド』的な。
山下 あ、それですわ、約ネバですわ。
大島 でも全然ちゃんと完結してましたね。話として。あと、ちょっと思ったのが、少年少女区別なく犯されるって言う。それとも、少年少女だからあんまり性別の概念ないのかなぁ。11歳、10歳とかだったらもう。
徳永 あー。あるっちゃあるし、ないっちゃない。
大島 何歳くらいなの、これ?
山下 わたしの感覚では14歳くらいかなっていう。
徳永 割と大人だなぁ。
大島 じゃああれだなぁ、もう酸いも甘いも、
徳永 酸いはまだあんまり。ちょうど知り始めかなぁ。……ミノタウロスはそもそも牛なんよな。
大島 どんだけ揉めてても両方被害者って言うのがすげぇ。ある意味平等って感じがしてすげぇ。
徳永 でも相当な犯され方なんだろうな、っていうのが、思ったよねやっぱり。
大島 出てますよね、これ、文章から。「まとめてめちゃくちゃに犯される」
徳永 まとめてだよ。
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②小室『無題』
https://drive.google.com/file/d/1e3ifo0E9UZuTRO7AQIMWth_nQCb2er3t/view?usp=sharing
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小室 皆さんみたいに「これで一回書いてみるか」みたいな所にまで至らなかったんですけど。一応ストーリー的な物だと2枚目の最初にちょっと書いてるやつと下に区切って書いてあるやつの2パターンあるなって考えてる途中です。
大島 ドラマがないって途中で書いてあるけど、この煮え切らない感じはすげぇシンパシーを感じる。皆で「仇を討とう」って話してるけど、仇討ちに積極的じゃない派閥もあって、みたいな過剰に複雑化していった結果、話が明快に進まない。
小室 ミノタウロス自体をあんまり人っぽく書きたくないっていうのがありました。かといってダイダロスとか他の人を中心に据えても、それはそれで独立した話になって、ミノタウロスの話にはならない。それでちょっと考えた結果、一個目はもうミノタウロスは出さない方向でと思いました。
徳永 ミノタウロスの子供を集めたシェルターがあって、みんなちょっと牛って面白いと思った。なんか可愛い。
荒田 一番牛要素が薄い奴が逆にないがしろにされていると言うことが、
徳永 逆転してる。
荒田 世界観として。
大島 ミノタウロスを憎んでる感がある? ああ、憎んでないのか? テセウスを殺そうって言ってるから。
小室 でもミノタウロスと面会はしてないから。たぶん、なんとなくテセウスに殺されたってことは知ってるけど、ミノタウロス自体のことはそんなにわかんない、みたいな。
大島 ミノタウロスの首が飾ってあるって書いてあるけど、首だけ飾ってあったら牛じゃん。だから見る度「牛なんだよなぁ」って。「(本物の牛の首と)入れ替わったんじゃないかな」「本当にこれ父さんなのかな」みたいなこと思いそう。複雑。
徳永 おばあちゃんおじいちゃんと子供たち皆でわりと仲良く過ごせてる感じあるの、ちょっといい。
大島 でもやっぱ世紀末感ありますよね。北斗の拳的な、シェルターから出たら、もう安全な所はない感じ。
小室 シェルターというか、そういう施設。親元では育ててもらえないから。
大島 災害みたいな。
荒田 ミノタウロスがめちゃくちゃしまくったっていうのは、
小室 偉い人を殺したとか、そういう特定の罪があるわけじゃなくて、手が付けられない、手に負えないっていう。その手に負えないときに何か色々していたんだろうなって想定です。
荒田 この下の会話っぽいところがすごく好きで「でも一番の復讐はこの血を後世に残すことじゃないすかね」「父親どういう人だったんすかね」っていうのが書いてあるだけなんですけど、会話している図が思い浮かぶ。牛要素が薄い奴の方がたぶんお父さんみたいにめちゃくちゃにはなんないんだろうけど、ないがしろにされてんだなぁっていうのは不思議な構造で面白いなーって。それを想像するのが楽しい。
小室 牛としてよいのか人としてよいのかがやっぱりちょっとわかんないみたいな。でもその牛と人のあいのこである苦悩みたいなのを書くのはちょっとだせぇかな、みたいな自意識が。
大島 そもそも親が牛っていうのがあんまり想像出来ないと思うんすよね。ナンセンスすぎて。だから「父親どういう人だったんすかね」って話してても牛について話してるわけだから、かなり面白いことになってる。
小室 でも半分人だから。ミノタウロスは父が牛で母が人、その子供は言うならばクォーターで、人間多めだからまだ人として扱えるな、みたいな気持ちがあるかも。
大島 そうか。でも首はただの牛なんだよなー。
山下 わたしもこの「復讐は呪われた血を残す」っていうところに、なんか容赦なさを感じて、好きでした。
徳永 この下のちょっとあるやつ、テセウス待っちゃってるのは?
小室 あれはちょっと途中だったんで。3枚目があって、3枚目は出さなかったんですけど。ミノタウロスが自分で「本能抑えられないから迷宮作ってください」って言って迷宮作ってもらって入った。でもやっぱり抑えられないからめちゃくちゃに、送られてきた人食べたりして。でもしっかり人間的に「ああもう、何やってんだろうな」っていう自己嫌悪があって、テセウスが来たときには「あ、嬉しい。殺してもらえるんだ」って言ったら、テセウスはミノタウロスの人間的な部分に情けを感じて許そうとするんですけど、ミノタウロスはテセウスを見てたらちょっとムラムラしてきちゃってそのままテセウスを犯そうとする。テセウスは「あ、こいつ本当牛なんだ」ってことに気づいて、殺して、生け贄としてポセイドンに捧げるっていう。
大島 あー完結してる。
徳永 一瞬人情あるような話になったけど、最後は。
大島 あと聞いてて思ったけど、牛っていう存在が人を食うものだったり、人を襲うものだったりして、すげぇなんか本当に邪悪な、
徳永 本当は食われる物なのに。
大島 本当は食われる物って考え方ヤバいっすよ。……でも一つ目の話はやっぱり牛を巡る話に牛が出てこないことで「牛って何だろう」みたいなことを考える、牛っていうか、「ミノタウロスってなんだろう」みたいなことを考えるところが、繰り返しになるけど、なんか良いっすよね。災害。
徳永 不在劇っていう感じにちゃんとなってる。しかも父親が曖昧な存在っていう。考えても考えても曖昧な存在っていうのが良いよね。牛で人で。混乱してるところもいいし。
山下 Wikipediaっぽさがそこに現れているんじゃないですか。
一同 おーっ。
小室 Wikipediaっぽさはちょっと意識してます。
徳永 面白い。
大島 たしかに、鵺ですよね。色んな話がある。この「時代感とか、子供ひとりひとりバラバラ、倫理とか」っていうのはどういうあれなんですか?
小室 そもそもこれは神話の話で、生け贄とかそういう要素は今では受け入れづらい。例えばこれが、古典戯曲として『ミノタウロス』が存在しててやるとかだったら、何千年も昔に作られたギリシャ悲劇ということで見逃せる部分というか、違和感なく見れる部分があると思うんですけど、ミノタウロスっていう伝説を基に今作るんだったら、そういう古過ぎる、今では許容できない価値観みたいなものをそのまま扱うことが難しい。そこで、子供が何人もいれば、すごく現代的な考えから、当時っていうか、ギリシャ的な猥雑な感じまで、色々な価値観が、マイルドというか配慮しつつ書けるかなと。
大島 いま小室が言ってたことと関係ない、ここの所を読んだときに患った妄想なんですけど、世相がめっちゃ変わってて、いつ迷宮に投入されたかで子供の思想が違うっていう話です。第一陣はめっちゃリベラルで、第ニ陣はめちゃくちゃ国粋主義的とか、そんくらいすげぇ変わってたら、迷宮に入ってからどうなるか? ……10年で世相、変わるか? って感じだけど、ひどい状況に置かれたときの受けとめ方が、迷宮入る前から抑圧されてたやつと、迷宮は入る前は自由な感じだった人でまた違うのかなぁ、みたいな話を想像しました。ちょっと切ないっすよね。妄想ですけど。
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③荒田『無題』
https://drive.google.com/file/d/1i5b5CyqDM0aPFyc-TdEupilCq24WRTuq/view?usp=sharing
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荒田 (執筆タイムの)一番最後に調べたんですけど、牛は赤い色に反応するわけじゃないみたいですね。
一同 えー。
大島 じゃ、闘牛はなんなんですかね?
荒田 あれはなんか動きに反応してるだけみたいです。
大島 これが一番ワンアイデアとしてシンプルなだけに強いですよね。赤色見るたびに興奮してたらけっこう大変だと思います。
徳永 しかも世界に赤色が多くなっていくの、こっちにはどうしようもないもんね。増えていっちゃうのは。それに舞台的に表現しやすそうやし。
大島 自分が苦手な物が増えていくってヤバいっすねぇ。
徳永 ポストとかなんか異様に立ってきたりする……でも赤増えていくん面白いなと思って。やっぱもう、最後みんな赤い服しか着てないやろうし。
山下 演劇的だなぁという感じがした。
徳永 視覚的で演劇的だと思った。
荒田 なんで牛なんだろうなっていうのがWikipediaを読んでからずっとありました。私的にはですけど、牛って扱いに困ると敵になるんだろうけど、優しい目をしてるし、なんで選んだんだろうなって。じゃあ牛の特徴ってなんだろう、みたいなことを考えて、赤色かなっていうところから赤を入れたんですけど。
徳永 戦争=血とかっていうメタファーもまあギリシャ悲劇的でもあるもんね。
大島 これ漫画、とくに短編漫画っぽいと思ったところがあるんですよ。はじめ穏やかな生活してて、突如すげぇ唐突に展開するじゃないすか、血塗れの男に刺され狂って死ぬとか、この前半に穏やかさと不穏さがあって、後半唐突になんか起きて死ぬって、なんかすごい短編、って感じがする。短編漫画。
徳永 すごい、いい感じにまとまってるんよね。カーテン開けられるってところも視覚的でいいなと思った。
大島 あー。これはいいですね。漫画っぽいっていうのはこういうところかもしれない。
徳永 絵で浮かぶっていう。
大島 浮かぶ。テセウス出てきてカーテンをパシャーッとやって夕日が出てきたとき、すげーコマでかいんだろうなみたいな。漫画家の表現によるかもしれんけど。
徳永 見開きで書かれるようなシーンな気がする。
山下 この最初の「顔こそ牛だが」っていう表現が、私は荒田さんの優しさが出ていてとても好きです。「顔こそ牛」のやつが最終的に(暖かい・やさしい…かはわからんが)夕日に照らされていく様はいいなぁって思った。
徳永 迷宮に入ったときからこの牛の所は暗く描いてたんだけど、開けた瞬間もう確実にくっきり描かれるんだろうな、みたいなよくわかんない視覚的なイメージが沸く。
小室 「顔こそ牛」って、確かになぁと思って。身体が馬とかもいるじゃないですか。やっぱ身体が馬よりは顔が牛の方が生き易そうだなぁってなんとなく、
一同 はははは。
小室 思ったって言う。
大島 馬として使われそうだもんね。すげぇ急いでるときに。
徳永 乗せてってくれよって。
大島 「顔が牛」ってヤバいなぁ。顔なんだなやっぱ。……下にメモみたいな感じで、色々分けて書いてあるのは何でしょうか?
荒田 実際に書いてくとしたら何を肉付けしていけばいいのかなっていうのを、書いていたり書いてなかったり。やっぱりこの絵も後ろから伸びている手っていうのが気になって。出典の絵を見れば普通にいるのかもしれないけど、この枠内で考えると何なのかな、っていうのを付け足したりすると面白いかなぁみたいな。
大島 実際この場面に居る人じゃなさそうですよね。なんか不可視な存在と言うか。
荒田 母とは仲良かったっていう設定ではあるんですけど。母以外に心を通わせてる人がいて、その人の手なのかなとかいう想像をして、ここには書けてないんだけれど、メモには書いています。あとなんかテセウスみたいな人があんま好きじゃないんで私。
一同 あー。
荒田 ミノタウロスに対しては今言っていただいたような感じで優しいのかもしれないんですけど、テセウスって。いきなり来て殺したなっていうのがあって。それが最後の部分に……話し合えなかったのかな。
大島 英雄だもんな。
小室 このテセウスはどういう気持ちでカーテンを開けたんですか? 「外出た方がいいよーぉ」みたいな?
荒田 そうそう。
一同 あーっ!
徳永 優しい気持ちだったんや。
大島 友人だもんね。
荒田 あの、想定してたのは、「まあまあ、日でも」「こんな暗い部屋で……」つって。
一同 はははは。
荒田 正義を押し付けてくる。まあでもそれはちっちゃい、正義ですけど。
徳永 空気入れ換えて。
荒田 いるじゃないですか、そういう人。ぱっと開けたら、めっちゃ夕日で。
小室 本当じゃあ何気ない善意で。
荒田 向こう的には善意だと思っている②と、①の血塗れの男っていうのは、テセウスであってもいいかもしれないんですけど、本当に謎の人がいきなり入ってきて殺される。それか、知人の小さな善意によって殺されるっていうのか、どっちかなっていうのを考えてました。
徳永 しかも結局テセウス、自分の身を守ろうと思って殺しちゃったから。
荒田 狂いはじめたんで「ちょっと怖いな、身を守らなきゃ」と思って殺した。
大島 ミノタウロスは繊細とまで言わないけど、タイプが違うテセウスと友人になれたんすかね。
荒田 そうですね。それはたしかになぁ。わかんないなぁ。なんかこの絵を見るとすごいグイグイくるなみたいな。そういう人なんですかね。テセウス。
徳永 テセウス的には友人と思ってたかどうかみたいな。
大島 思ってたでしょう。友人のハードルが低いんじゃないですかテセウス。
徳永 いっぱいいるから。一回二回喋ったら友人ってことに。逆にミノタウロスもハードル低いから。友達おらんもん。
大島 友達いなかったら低くなるかなぁ。高くなることもあるんじゃないですか?
徳永 そりゃあミノタウロスによるよね。このミノタウロスはたしかに高くなるかもね。
大島 テセウスはもしかしたら、ハードルが低すぎて、ミノタウロスの頭が牛ってことに気づいてなかったのかもしれない。
徳永 見てねぇ!
小室 テセウスはミノタウロスを殺した後にどういう感じだったんですか。結局「ミノタウロスを成敗しなきゃ」と思って来たわけじゃなくて、うっかりカーテン開けて、「あ、やばっ」と思って、うっかり殺しちゃうみたいな感じじゃないですか。テセウス的にそれは、やっぱりすごく自責の念に駆られるのか、それともそれはそれで、
荒田 わかんないですけど、わかんないんですけど、ミノタウロスにはわりと周りに迷惑をかけてきた実績があるんですね。で、これも今思いついた順で適当に話しますけど。テセウスもなんか生きづらさがあったのかもしれないけど、このミノタウロスと仲良くしてやってる感、っていうのがあったとしたら。やっぱ殺すときに一番先に出るのって「こいつ元から危ない奴だったよな」みたいな感じはあると思うんですよ。だから、そういう意味で言えば、正当防衛。
小室 特に気にしないって感じ。
荒田 そこまで考えてなかったんですが。
小室 いや、面白いなと思って。
大島 そうやって聞くとけっこうテセウスのこと好きになっちゃうっすね。なんか、すげー単純で。
徳永 それ、あんたの好きな白人像や。(※大島の好きな白人像。金髪碧目のマッチョ。歯並びの良い白い歯を見せて笑う。=フラッシュゴードンとかロッキーホラーショーのロッキーとか)
大島 ちょっとマイノリティだけど「俺そういうの気にしないぜ」っつって、仲良くなった子と、で「あ! うわーうわーあーあーあ! こいつ危ない奴だったぜ」って。「さあ、今日は何食べようかなぁ」みたいな。
徳永 あっけらかんとしてるんだね。
大島 わかんない。生きづらいなぁ。こいつも生きづらいんだろうなぁ。
荒田 そうかもしれないですね。
徳永 テセウスも強靭なパワーを持ってて、ミノタウロスもやっぱ強靭なパワーを持ってる同士ではあるから。
大島 ラガーマン同士の。
徳永 パワータイプ同士の会話ではある。
大島 「母は母で正気でいたり正気でいられなかったりする」っていう文面。なかなかヘヴィなものがあると思うんですけど。
小室 これって、上の①②みたいに、正気でいられるパターンと正気で居られないパターンがあるっていうよりは痴呆症みたいな感じですか?
荒田 なんか、痴呆症まではいかないけど、あっけらんとしているときもあれば、あたしなんか牛とやっちゃったんだ、みたいな。
小室 そうか。正気な状態だともの凄い子供への後悔っていうか。牛との子供を作っちゃったよみたいな感じになる。
荒田 正気ですね。正気が何を現わすのか。正気っていうのはたぶん「母として子を育ててる」みたいな部分なのかなぁ。正気で居られなかったりする部分は、過去に心が戻ってしまうみたいなのをちょっと想像していました。
徳永 ミノタウロスの前でもその感情のゆらぎっていうか、正気であったり、なかったりすることはあるんですか? ミノタウロスが居ないときそうなるとかじゃなくて。
荒田 母って、私の母を例に出して言えば、めっちゃ顔に出ると思ってるから、そうでない母も普通にいるんでしょうけど、ミノタウロスの前でも出てるのかなぁっていう。まあそれがどのレベルでっていうのはわかんないんですけど、だからミノタウロスもこう、考えるところがある。みたいなことを考えました。
徳永 ミノタウロスも母親の浮き沈みで翻弄されそう。
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④大島作『無題』
https://drive.google.com/file/d/1zD9xYsFv2bHZHEwMzmddhet5YKfHP2jv/view?usp=sharing
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小室 純粋に一番素直に書いてるなと思ってすごく良かった。
徳永 なんかわかりやすかったこれ。
大島 やっぱシノプシスが何か分らないから、なるべく自分を殺そうと思ったけど、なんか狂気の世界って書いてあるあたり自分が出ちゃったなと思ったけど。
徳永 部屋の描写とか大島くんっぽい。過剰にキモイっていう。
大島 やめてくれよ。
徳永 確実にこの部屋は、呪われてるわ王妃と思ったもん。
荒田 王妃の部屋いいですよね。
大島 ありがとうございます。やったー。ほら。
徳永 僕もキモくていいなって思った話だから。
大島 個人的にやっぱ自分を殺して書いてても、子供が欲しくて任活に励んでるっていう文章はキモいなぁみたいに思いながらも。
山下 そこは大島くんだと思ったけど。
徳永 そこは普通に大島くんっぽいよ。
大島 なんでだよ。
山下 いや、もちろん、良い意味で。
徳永 みんな精一杯「良い意味で」って、絞り出すように(笑)……あと僕、この交わった後に呪いが解けるっていうギミック、ナイスだなと思った。なんかファンタジーでありそうで腑に落ちるし、この後パーシパエどう扱おうみたいな気持ちになったけど「これいいやん」と思って。あと「産道にひっかかっている、角だ」って痛そうやし。生まれたときから角生えてるんかいと思ったけど、これは王妃死ぬなと思ったもん。
小室 なんで呪い、このタイミングで解かそうと思ったんですか。
大島 やっぱりポセイドンがより悲劇的になるように、効果的なところで止めるんじゃないかって。呪いってなんか「目的が完遂したら解ける」みたいなイメージがあって。だから一番効果あるところがもう終わったら呪いを解いて、あとは悲劇に落ちるだけ、みたいな。
徳永 たしかに、一番ヤなタイミングだなと思ったもん。解けるの。
小室 赤児が生まれてきて牛だってなって、王妃が気失ってそれを見た王が牛舎に走って牛の首を刎ねる、っていうのもスピード感があっていい。もう「アイツだ!」ってことに気づいたんだなって。
大島 「罰だぁー!」みたいな。
徳永 僕もこのすぐ「復讐だ!」みたいな発想で首を刎ねに行くの「ギリシャ悲劇っぽ」って。
大島 (俺の中の)ギリシャ人だから。子供が牛だった瞬間に「ああこれは神が関わってる」って気づいて、全部ピーンと「ああ、あのとき俺がああしたから」で「あの牛を欲しがったからだ」って牛を殺して、この時点では王は、王妃が牛と交わったんじゃなくて、罰として、普通の子供が牛にされたのかなと思ってた。書き方ちょっと雑ですけど。
徳永 そっか。任活してたから「俺の子や」と思ってて。
大島 そうそう、俺の子やと思ってて。
徳永 あ、伏線が効いてるんや。
大島 はらたつなー。
小室 死んだ王妃と頭が牛の赤ん坊っていうのは、王妃が発狂っていうか「えぇーっ!? これ???」ってなって心中したんですか?
大島 これも記述が雑ですけど、王妃は(産褥で)死んでて、赤児だけが遺されてる。ゆえに王様は、王妃との繋がり的な意味でも、この赤児(ミノタウロス)を背負っていかざるえないみたいな。だから始まる所で終わる話。プロローグみたいな。
徳永 王妃が憧れの白牛がモブ牛と交わっていることに嫉妬しているところもなんかめっちゃ人間的やし。牛を好きになるってこういうことか。みたいな気持ちになった。生々しくていいと思った。
大島 その牛は吊るされるんすけど、殺して。
荒田 なるほど王妃に。
大島 だからあの、王妃の部屋に牛の絵がいっぱいあって、雌牛と子牛の死体が吊るされてるっていうのは、全部身体がまだらの子牛と、交わった雌牛を吊るしているっていう。
荒田 この絵は自分で王妃が。
大島 はい。
荒田 「自分が牛だったら、ここかしら、ここが牛なのかしら」っていうのを想像して書いた?
大島 たぶん。錯乱してるから。系統だった論理はないと思うんですけど、でもそういうときもあって、生まれた子供はどうなるんだろう、みたいなのもあって。でも呪いで頭がもうはちはちになってるから、その呪いが解けた王妃の目から見たら「なんておぞましい」みたいな絵を量産してた。
徳永 てっきり殺した牛の血でこの絵を描いてるのかなと思ったけど、
大島 そういう描写は考えてなかったですね。
大島 個人的にはシノプシスってあらすじ感があったから、あらすじっぽく書こうと思ったけれど、みんな結構違う書き方してたからサンプルとして普通に書いてみてよかったかも。これで合ってるのか、合ってるとかあるのかわかんないですけど。
徳永 でもプロットとかってこんな感じじゃない?
大島 そうなんですか?
徳永 (台本を)書く前に書く。ざっくりしたラインみたいな。あらすじみたいな。
大島 この話はけっこうでかい話になっちゃうんですけど「戯曲を書くとき、始めにどうするか」って、みんなけっこう違うと思っていて、僕はあらかじめプロットみたいなのを書いて、それに従って書くっていうことが出来た試しがなくて、いつもひたすら何回も書き直すみたいな方法でしか台本が書けない。いつも(シノプシスを使うような書き方を)やりたいとは思っているんですが。……徳永さんはけっこうハイペースで脚本を書いてますよね。
徳永 そんなことない。月、1本くらい。
大島 月に1本くらい2時間ものとか書いてますよね。だから本当に量産力っていうか、普通に組み上げてから書きますもんね。
徳永 そうそう。シーンと流れだけ作ってから書きます。プロットってかシーン。このシーン書く、このシーン書く、このシーン書く、っていうのだけばぁーって一言ずつ書いていって、で(本編)書くみたいな感じ。
大島 そういう書き方とか、劇作家のそれぞれの手癖みたいを知りたいっていう企画でもあったんですね。まあ、もうかなり出てますけどね。皆。
徳永 題材に対してこういう切り口で作品にしていくんだっていうのがよく見えてくるよね。
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⑤徳永作『ミノタウロス』
https://drive.google.com/file/d/1aZBqfLbi-E4CTP_A75LsZO0HNU0ktvCH/view?usp=sharing
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徳永 これ「ミノタウロスなかなかかわいそうな奴なんじゃないかなーって話」でまとめてるけど、照れ隠しで書いただけで。どちらかというと「誰が悪いのかよくわかんねーみたいな感じの話」にしようと思った。それと、さっきの大島くんの書き出すときの話みたいなやつ、僕の中で全然まとまんないままで、極力セリフから書いてみた。そうするとイメージしやすくて、そういう感じでなんとなく一回書いていってみたって感じです。ミノタウロスと少年たちの触れ合いを書こうかと思った。
大島 これ構成が面白い形になっていますね。
徳永 ぼくの中ではこれが構成なんだ。このプロット構成、急ごしらえで作ったんよね。ミノタウロスの回想をしながら、ときどき実際の話を進める。
大島 じゃあこれは劇の時系列に従ってるんですか?
徳永 従ってる。前日譚が挿入されるだけであって、このナンバリングの進行が時系列っすね。ミノタウロスの話⇒昔の話⇒ミノタウロスの話の続き⇒昔の話の続きみたいな。ここに入れたら変な感じでミノタウロスに感情移入できるんじゃないかと思って。
山下 大島くんのときも思ったんですけど、徳永さんのも牛の扱いがめちゃくちゃ魅力的だなぁと。なんていうんですか、雑に扱うところは雑に扱うみたいな。バランスの良さがいいなと。
徳永 牛に対して?
山下 全体。キャラクターが魅力的で良いなと思いました。わたしは苦手なんで。
大島 まあでも(山下は)狂ったような文章いっぱい書けるから羨ましい。
大島 これ「星」って名前つけてるあたりがポエミーですよね。
徳永 ポエミーでしょ。ミノタウロスが子供たちに自分のことを「星」って呼ばせてるん。
大島 これ母親が牛に惚れたままパターンなんですね。僕のやつが呪い解けちゃって「うわーおぞまし」ってなるんだったら。こっちは生まれても牛好きなまんまだから「うわーそっくり、めっちゃ可愛い」ってなるんだなぁ。
徳永 「良い顔」ってなっちゃって「星のように輝いてるな、……星」って名付けた。
荒田 幽閉生活はシリアスって言ったらシリアスな気がするんですけど、少年の、ミノタウロスという人の繊細さとかが現れてるシーンに、この母のエピソードを交互に入れてくる、このなんか、なんていうんですか、この組み合わせっていうのは、どういうところから?
徳永 なんか微笑ましい…、いや微笑ましくないかミノタウロスの話は。ミノタウロスは少年たちとすごく仲良く楽しく過ごしてるんだけど、急に自分をコントロールできなくなって、殺しちゃったりする。まあミノタウロスには罪があるよ。罪があるけど、でも元を辿るとなんかよくわかんないけど、まず母親が牛とファックして、産んで、まあ一応愛されてた。そういう「こういうヤバい奴なんだけど一応こういう過去があったよ」みたいなのを入れながら進んでいったら、ミノタウロスの見え方が最初とは変わっていくんじゃないかな、という効果を狙ってみたかな。最初読んだとき、こいつぜんぜん感情移入できないなと思って。でもうまいこと構成で過去の話、ミノタウロスになってしまった理由のシーンを入れていったらもしかして感情移入できる存在になっていくんじゃないかな、っていう好奇心があってやってみたって感じですね。
荒田 このWikipediaを最初に見たときもそうですけど、これは母親が牛とやっちゃう件とかがぶっ飛び展開じゃないですか、けっこう、こう、わたしのイメージだけど、漫画とかでも過去の方が暗いことが多いじゃないですか。その過去が「頑張ったのね、可哀相だったね」っていう感情移入の仕方じゃなくて、ある意味「大変だったね」っていう、ミノタウロスへの不思議な感情移入の仕方ができそうな気がしてきました今、話を聞いて。
徳永 牛の頭ゆえに、ゆえにってことでこんな感じになっちゃってるけど、その原因にミノタウロスの意志は関わってなくて、親たちの呪いの関係で牛として生まれちゃったと。で、結果ダイダロスが色々やって今に至る。みたいな感じになった。結果翻弄されすぎて引きこもっているミノタウロス、みたいな方向になっちゃいましたね。
大島 めっちゃ幼いですよね、このミノタウロス。イノセントっちゃイノセント。母親の模型を愛でてる所から始まって、で、子供は成長して、ミノタウロスの好きな遊びをしてくれなくなるし、恋愛とか、ミノタウロスには不可能なことをどんどんしようとするから、殺して、またリセットして、ずっと同じ所にいるっていう。で、テセウスが来て殺されるっていう。
徳永 邪悪なピーターパン。
大島 ピーターパンですよね。スタンドバイミーって最初に書いてあるけど、やっぱ子供ですよね。
徳永 子供なイメージだった。ゴリラの子供。力加減できない。
大島 母親がいつのまにか消えてますよね。
徳永 うん。ちょっと処理に困って。
一同 ははは。
徳永 だからまぁ呪いの解けたことにでもしよっかな。
小室 実際の母親は人間じゃないですか、でも母性っていうか、母親像を模型の牛の方に求めてるじゃないですか、それはやっぱミノタウロスのアイデンティティ的には自分が牛だってことに固執してるって、そういうことですか?
徳永 書いたときは母親とはそんなに交流がないってイメージだった。最初は「星」ってつけたけど、そのまま。母親との記憶はあんまなくて、たぶん途中でおらんくなったんだろうなみたいな感じで書いてたから。それで唯一母親を感じられる物が模型の牛だった。で、自分とも顔が似てるからっていう理由で迷宮に持ち込んだ。
大島 顔似てんだ。ダイダロスがやっぱ凝ったんだな。パーシパエ(母親)を牛化するとしたらこういう牛だろうなっていう。
徳永 そうそうそう。
大島 母親の匂いとかするかもしれんぐらいの。
徳永 模型の乳首とか吸うし。
大島 あーきめぇ。でもやっぱ映像的ですよね。非常に。
徳永 模型の牛出したくて。
大島 でも面白いのは、昔の話もすごいけど、現実の話も殺しまくったりしてエグイいっていう。どっちもなんか極端ですよね。
徳永 単純にミノタウロスかわいそうなやつ、ではないっていう。むしろ子供の方がかわいそうっていう。
大島 子供サイドとかもあんのかな。
徳永 メインになる生け贄役の子一人くらい作ろうかなぁって考えてる。