ローリングあざらし撲殺活動記録

その軌跡。議事録。文章置き場。その他なんでも。

2023.3/4(土) ハムレット会前夜②ハムレットを4回読んでそれぞれに思ったこと。

一回目(市河三喜・松浦嘉一訳)に読んで思ったこと

●読む前の記憶と色々違っていた。

・ホレイショーの存在を忘れていた。

・亡霊はハムレットだけじゃなくてみんなに見える! 

ハムレットの留学を当てずっぽうでノルウェーだと思っていたがドイツだった。

・レアティーズの存在を忘れていた。

・・王は蛇に殺されたことになっていたのか。

 

●なんか戦争の気配がする。

・イギリスが属国。

ノルウェーのフォーティンブラス(子)が攻めてくる。

・それを止める為、クローディアスがフォーティンブラス(父)に使者を送る。

・フォーティンブラス(子)は代わりにポーランドを攻める。フォーティンブラス(父)はそれを止めないばかりか、むしろ応援する。ポーランドかわいそう。

・なんでこんなに戦争したがるんだ? 時代背景?

ハムレットの父王は戦争に強かった。

 

●みんな人の話をあまり聞かない。

・亡霊は一方的に喋る。命令する。家父長制の権化。

ハムレットのセリフが長い。

・続くクローディアスのセリフも長い。

長台詞の応酬にお互いなぜ耐えられる? そういう文化なのか。聴いていないのか。

セリフが短いだけでも芝居は別物になりそう。

 

ハムレットがクローディアスのことをもうちょっと好きになるだけで話は変わる

親父に対するこの尊敬はなんなの?

 

貞操観念が中世!

レアティーズもボローニアスも処女を守れ、うるさい。処女厨

女の人の美徳は貞節。地獄のようにつまらない世界じゃないか。

 

●文化/宗教

みんなキリスト教徒。

でもギリシャ神話からの引用比喩も多い。

特にハムレットヘラクレスや、オリュンポスをよく例えに出す。そういうの好きなのか。

 

●狂人

思ったよりも、みんなハムレットを狂人扱い。

ボローニアスと、隠れている叔父母の前で、狂人のふりをするのは面白い

狂人の台詞を書きたい。

 

●劇中劇

芝居に対する、ハムレットの「見巧者に褒められてこそ」みたいな観念はどこから来たんだ?

「眼のある見物の批判こそ、小屋いっぱいの他の見物よりも尊重しなければならない。」

芝居を見て、クローディアスはハムレット殺しを決意する。「こいつは狂ってない。何か危険なことを考えている。ここがわりと転換点。

しかしハムレットが劇団にやらせる演目「ゴンザーゴ殺し」って響きにはたまらないものがある。

 

●ローゼンクランツとギルデンスタン

優柔不断で長いものには巻かれがちで憎めない2人。

友達面してくるギル&ローコンビに対して、初めは普通だったのに、だんだん辛辣になるハムレット

「この笛を吹いてくれないか」「吹けないの?」「吹き方を知らない?」「なのにどうして僕からは好きな音色を奏でられると思ったの。僕のことを何も知らないのに。」

この例えはけっこう気が利いていると思った。

2人が徐々にハムレットの信頼を失っていくところはなんとなく描かれている。

 

●その他

ポローニアスぶっ殺すところのハムレットの残酷マンっぷり。ここからタガが外れたようになる。話もテンポが良くなり、面白い。

 

2回目(福田恒存訳)に読んで思ったこと

 

3幕1場

ハムレットが旅芝居の一座が街に来たことを喜んで、王や王妃も誘ってるよ。うん、喜んで一緒に見ようよ、って話のあとで、突然のクローディアスの傍白「~おお、この罪の重荷!」はじめてクローディアスがクロ(王殺しの犯人)であることがわかる。でも、なぜここで?

王殺しの芝居を見た反応で、初めてわかる方がサスペンスフルじゃないか?

 

3幕3場

・芝居を見て、気分を悪くしたクローディアス2度目の独白。(長い。)罪悪感から祈る場面。

それを見て、殺そうか悩んだ後、やめておく、ハムレット。ここにも許すか許さないのか、というサスペンスがありそうなものだけれど、後で絶対に殺す、つってて、どっちに転ぶのかドキドキ、みたいなものは全くない。

クローディアスを許せば、そして、ポローニアスも死ななければ、喜劇として終えることもできるのかも。

 

3幕4場

・芝居のあとの、王妃によるハムレットへの説教の場面。

ハムレットがやばいくらい王妃に悪口をいう、

「ああ、ハムレット、もう何も言わないで。そのお前の言葉で、おのが心の奥底をまざまざとのぞきみる思い」「黙って、もう許して。一言一言が匕首のようにこの耳を。」

 

と何やら王妃が良心の呵責を覚えている様な描写。原典の『ハムレットの物語』と違い、シェイクスピアハムレットでは王妃は夫殺しに加担していないし、クローディアスと関係したのは兄王の死後のことなのに。いったい何がやましいのか。

 

・王の亡霊の2度目の登場。前回はホレイショーたちにも見えた亡霊が、今回はハムレットにしか見えない。(少なくともガートルードには見えない。)

ハムレットの「僕は狂ってない。」(狂ってる奴はみんなこういうんだ)発言も相まって、ハムレットがまじでキているようにも見える。

 

・ポローニアスの死

こいつがここで死んで、王の立場が危なくなって(民衆がその不審な死を噂する)レイティアーズと王の間も緊張するし、オフィーリアも狂うわで、ポローニアスの死が物語を悲劇に傾けるウェイトはけっこう重い。

 

クローディアス「国中の者がポローニアスの死について、なんのかんのと憶測をたくましゅうし、けしからぬ噂をまきちらしているらしい。ーーーこちらのやり方もまずかった。どさくさにまぎれて死骸をかたづけてしまったのがいけなかったのだ」(4幕5場)

 

父のことを「母上」って呼んだり、狂ってる、という設定によって、道化よろしくラフに喋れるハムレットは、思っていたよりも始終ずっとふざけている。

 

 

3回目(小田島雄志訳)に読んで思ったこと

 

・煉獄

1幕5場でハムレットと亡霊の会話。

「わしはそなたの父の霊だ。期限が来るまで夜は地上をさまよい、昼は煉獄の炎に身を焼き、苦行し、生前犯した罪業の、焼かれ、清められる日を待つ定めにある。」

 

なぜ父は煉獄行きに→のちのセリフで「聖餐も受けず、臨終の精油も塗られず、懺悔もせず、死出の旅路の用意もせぬまま、きびしい神の裁きの庭に引き据えられたのだ」とある。

煉獄行きを免れる条件厳しくない? 死に方しだいでは煉獄に行きの面倒くさい世界。

王の臨終なのに、精油を塗られたりしてないのはなぜ?

 

・普通に喜劇っぽい

2幕2場でポローニアスが「ハムレットが鬱ってる原因わかっちゃいました!絶対間違いないです。間違えてたら首刎ねてください」とか言って「それは僕の娘、オフィーリアに恋しているからです。間違えてたら引退して牛育てます(ちょっと日和ってる)」とか言って、じゃあ、みんなでこっそり様子を見るよ、さあ、ハムレットが来たよ、みんな隠れて!」って展開。色々間違ってるし、完全に喜劇っぽい。あと、じゃあこういう作戦で、って話が決まった瞬間にハムレットがやってくるの完全にコントのタイミング。

 

 

・後半のあれこれ

ハムレット、祈っているクローディアスを殺すのをよした後、なぜ素直にイギリスへ行くのだろう? 

この芝居では復讐の遅延が描かれている、というが、この後の展開はまさに遅延だ。

 

イギリスから戻ってきて、まずやることがホレイショとの墓場デート。そもそもハムレットたちがなんのために墓場をうろついていたのかもわからない。日活ロマンポルノ並みにわからない。でもそこでオフィーリアの葬式を目撃するから筋的には必然性があるけれど。

 

・レイアティーズと揉み合いになって引き離されたあと、次のシーンでまた何事もなくホレイショと呑気に歓談しているのギャグ漫画っぽい。シーンの飛び方とか。

 

・あと、この間にレアティーズがハムレットの謝罪を受け止めるくらいに冷静になっているわ、王様も剣の試合でハムレットが一本取ったら乾杯しよう。とか言っているの(毒殺する為にわざとだろうけど、ポローニアスを殺した咎がすごく曖昧になっていることに、ガートルードやハムレットは不審を抱かないのか。

 

・民衆関連

 

4幕5場

舞台奥で騒がしい物音。

武装したレアティーズ登場、民衆があとにつづく。

レアティーズ「国王はどこだ! みんな外で待て!」

民衆「おれたちも入れろ!」

レアティーズ「頼む。まかせてくれ」

民衆「よしまかせるぞ」

 

普通にクーデターなのに、この後、お咎めの様子なし。

また別のところでハムレットが民衆に人気だから殺せない。とか、

民衆が「レアティーズを王に!」と叫んでいる。

とかある。民主制でもないのに、民衆の力がかなり強い?

 

レアティーズ「頼む。まかせてくれ」

民衆「よし任せるぞ」

とかいってるし。貴族との距離感近い。それともレアティーズがレジスタンスに身を落としているのか。

 

 

ハムレットは大学に戻りたいという意志を示していた。

でもクローディアスもガートルードも戻らないでと言っていた(なんとなく、ガートルードの方の意向なのかな?)

戻れば起きなかった悲劇。

大学では何を勉強していたのだろう。そもそも当時の大学って何を学ぶところなの?

 

 

4回目(松岡和子訳)に読んで思ったこと

1幕つまらない。

ラブストーリーがない。面白くない。

オフィーリアとハムレットの甘酸っぱい話はすべて伝聞。

あの聡明だったハムレットも伝聞。

 

まだガートルードとハムレットのエディプス的なラブストーリー(最後は和解と死)

感の方が強い。

 

読んでみて。総論。

ポローニアスを殺す3幕の最後くらいからぐっと面白い。それまでに溜めていた筋が一気に動く。そう考えると構築物としてよくできてると言わざる得ない。

逆に1幕はとくにつまらない。デンマークが戦時下であることの説明。クローディアスの立場の説明。

愛情たっぷりの父に説教されるレアティーズと、ハムレットとの恋を戒められるオフィーリア。

ラブストーリーはない、サスペンスもない。亡霊は説明役。

ハムレットとオフィーリアの恋も、クローディアスとガートルードの恋も表立っては描かれない。

 

登場人物同士の関係が希薄。ポローニアスの死をオフィーリアとレアティーズ以外は悲しまない。お互いの関心は家族にしかないのに、その家族関係が家父長制で広がりがない。

 

狂ったオフィーリアはハムレットに手篭めにされたんじゃないか、と思った瞬間があった。

オフィーリアとガートルード以外の女性は出てこないし、彼女たちはやすやすと死ぬ。