3/5日のリモート勉強会(本の紹介会)報告②大島
◎半田くんの発表
どの本について語るかを決めかねていたということで、最近読んで気になったものの中から3冊を紹介してくれた。レジュメはなし。
①森田ゆり『多様性トレーニング・ガイドー人権啓発参加型学習の理論と実践ー』部落解放人権研究所、2000年
多様性、ダイバーシティについての本で、B4くらいのグッとくるサイズ。
様々な人種/文化を混ぜ合わせて形成されるアメリカの在り方を指し、かつては「メルティング・ポット」という言葉があった。しかし時代が進み「混ぜあわせて一つにするということは、同化しろということであり、他の文化を尊重していないのでは?」という疑問から次第に「メルティング・ポット」は使われなくなった。代わりに、それぞれがそれぞれの形のまま一緒に在る「サラダボウル」という言葉が生まれた。
というような、ダイバーシティ(多様性)について考える内容の本。
実践的なワークショップの記述が面白かったそうで、今回の勉強会では割愛されたものの、また次の機会にお話を聞きたい。もしくは読んでみたい。
ほか、半田くんが印象に残った内容として
多様性とは何か考える際に重要なのは「自分が差別しているという視点を受けいれること」
例えば電車で隣に乗ってきた人を見た目などでなんとなく差別してしまう自分を認識する。
などについて話してくれました。
②カート・ヴォネガット、伊藤典夫訳『スローターハウス5』ハヤカワ文庫、1978年
カート・ヴォネガットは爆笑問題の太田が好きな作家。爆笑問題の所属事務所であるタイタンもヴォネガットの小説『タイタンの妖女』から名付けられた、という話をしてくれた。
松尾スズキが大いに影響を受けた作家で、とくに初期戯曲はヴォネガットの作品との共通点が多い(時系列に沿っていない、膨大な登場人物、ほか、読み比べてみたら色々見つかるはず)小説作品においては物語本編にいくまえの前書きが長いことも共通する。
『スローターハウス5』のあらすじを紹介してくれた。
メモがないため、以下は、大島なりのまとめである。
主人公のビリー・ピルグリムは痙攣的時間旅行者で、その人生は時系列順ではない。
例えば、青年として第二次世界大戦に従軍していたかと思えば、子供時代に戻り、次の瞬間には中年になった娘と話しているというものだ。彼は人生のある時点で、UFOに誘拐され、トラルファマドール星の動物園に収容される。そこで彼はトラルファマドール星人から彼らの時間というものについての認識の話を聞く。
行きつ戻りつしながら語られるビリー・ピルグリムの人生の場面、第二次世界大戦中のドレスデン大爆撃を中心に、たくさんの登場人物の生き死にや行いが語られる。
ドレスデンの大爆撃は、第二次世界大戦に従軍していたヴォネガット自身が体験したことだ。彼は捕虜になり、ドイツの美しい都市ドレスデンに送られた。捕虜たちはスローターハウス(屠殺所)に収容され、そこで味方軍による大爆撃を受けた。
半田くん「人生って時系列通りの感覚じゃない。もっとうねうねしている」
その感じがこの小説では描かれているという。過去から未来へと理路整然と進む小説より、SF要素の入ったこのひねくれた構成を持つこの小説の感じこそ、むしろリアルなのではないか。
ぼく(大島)自身、ヴォネガットが好きで「スローターハウス5」は3回くらい読んでいる。
でも半田くんが語ってくれた『スローターハウス5』の話はとても新鮮だった。
(内容をちゃんと覚えていないということもあるけれど)
この『本の紹介会』の企画書に「知っている本でも、紹介する人の感想や考えに触れることで新たな発見がある。」と書いたが、この目論見は1ミリのずれもなく当たった。
考えてみれば、何を読んでも自分自身でいる限り、自分という枠のなかでの偏った理解や感想しか得られない。だから他の人から意見や感想を聞くことで初めて、枠を出た、新しい知見や感覚が得られる。一つの作品について、他者と感想や意見を交換するということは、作品を深く味わうためには、かなり重要なプロセスなのではないかと感じた。
③宇都宮隆二『人生の目的論:会社依存から脱却する新しい就活論』kindle、2020年
半田くん「この本の内容を本当に忠実にやってみたら非常に効果的で、就活の面接がうまく行った」
「本の内容を本当に忠実にやる」というと、響きはシンプルだが、実践できる者は少ないのではないか、と勝手に思っている。(なぜなら私ができないからだ。読みっぱなし。)
半田くんが行ったのは「白紙を50枚くらい用意し、ひたすら自分のことを書く」というものだ。
「なぜ大学に入ったか?」「演劇をやりたかったから」「なぜ演劇がやりたかったか?」「松尾スズキが好きだったから」うんぬん、、、半田くんは最終的に「ボーイスカウト」に辿り着いたそうだ。ボーイスカウト時代に出し物をしてうけたことを思い出したらしい。
なぜ? なんのためかを思い出す。
「目的」は何? ということかもしれないが、
個人的には「目的」という矢印のような言葉より、「理由」という自身の内に秘められているような言葉のほうがしっくりくるので以下は「理由」としますが(※完全に個人の好みです。)
紙に書き、理由を掘っていく、理由の理由を掘っていくうちに、初めは見えなかったもの、我ながら把握できてなかった理由を見つける。理由を言語化していく。そうやってクリアにしていくことで、理由を他者とも共有できるようにする。
という効果で、面接がうまくいったのではないかと推測する。
上記の行為は、いかにも役立ちそうだ。
「理由(ここでは目的の方がわかり良いか)」「目的」を人と共有することで実現に近づくこともあるだろうし。
書かれた通りにちゃんとやってみることについて。
これは自己啓発本だけではなく、脚本や、何か技術的なことの指南書などもそうだ。
むしろそういった本はやること自体がメインで。ただ読むだけでは、その本を読む目的は1割も達成できないのかもしれない。
(続いて僕が紹介した『批評の教室』もそういう類の本だと言える)
Z(雑談)
Q&Aよりも雑談が印象に残っている。どれも難解な本ではなかったからか、あまり質問はなかった。
最後の本が半田くんのキャリアに影響したということもあり仕事の話とか演劇についての話をした。
「演劇を観まくることで、演出力は補完できるが、戯曲を描く力は演劇を観るだけでは、身につかないかも。」みたいな話。
あと「自己啓発本、けっこう悪くないよね」みたいな話。
ぜんぶ四方山話。面白かった。
最近読んだ3冊の本という発表スタイルは半田くんだけで、発表のバラエティが豊かになった。
このスタイルは「最近の読書の状況をリポートをする」という定期的な活動にしてもいいかもしれない。